婆ちゃんの餅
私の記憶では、婆ちゃんがいた頃には季節ごとに行事をして楽しんでいたように思う。
それは信仰心からなのか代々続いているから行ってきたのかは今となってはわからない。
年末の晦日には、家族総出でお餅を搗いた。
朝から、もち米を蒸かす、いい匂いと薪を燃やす煙の匂いが部屋中にだだよった。
私は餅よりも、蒸かしたての米が大好きで母にねだって食べさせてもらっていた。
父が石臼と杵を用意して、杵は水に浸しておいた。
餅搗きの音と立ち昇る湯気を見ていると、もうすぐ楽しいお正月が来るのだということが、
幼心にもわかった。
撞きたての餅は、粉を振りかけた大きな板に乗せられ、のし棒で平らに仕上げられた。
一方で婆ちゃんは餅を丸めて中に餡を入れて、あんころ餅を作っていた。
私の地方では伸し餅にした後は、四角く切り分けて保存したので、搗きたての餅はあまり食
べなかったが、親戚の爺ちゃん家に嫁入りしたオバちゃんは、生まれ故郷の料理だと言っ
て、搗きたての餅を丸めて納豆や粒餡をまぶして持ってきた。
おかげで我が家の周辺の家はオバちゃんの珍しい餅料理を食べる機会に恵まれていた。
私が仕事で山形に赴任した時に、その謎が解けた。
山形や東北地方では餅は保存せずに、搗きたての餅にいろんな具材をまぶして食べる習慣が
あったのだ。
大人になってからオバちゃんの故郷を聞いたら、宮城県の米どころだった。
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