母の忘れ物
母は30代から40代にかけて尋常ではない忘れ物の常習だった。
父と車で隣町まで買い物に行くと、スーパーのレジで必ず財布を忘れる。
家に帰ってきて財布が無いと騒ぐのは日常茶飯事だった。
父はいつもの事なので文句ひとつ言わずに財布を取りに戻っていた。
昔は路駐するのが当たり前の時代に、母がスーパーで買い物をして戻ると、路駐している他人の車に乗り込んでしまう。
父は「お母さんまた他人の車に乗り込んだよ」と私に教えてくれる。
そのうち大笑いして車から出てきた母は周囲を見渡して、父の車に戻ってくる。
私も忘れられた事が何度もある。
自転車で近くの農協まで行くときに、私を荷台に乗せたのはいいのだが、私を振り落としたのを気付
かずに農協で用事を済ませ、私がいないことにビックリして、来た道を戻ると私が側溝に挟まって泣
いてたのだ。
ある日、隣町に電車で買い物に行き、大きな鉢植えを買ったらしく、帰りに電車の椅子に鉢植えを抱
えて座り、その隣に私を座らせていた。
駅に到着した母は鉢植えだけを持って下車し、私を電車の中に忘れたのだ。
私は車掌さんに連れられて、次の電車で帰ってきた。
母の究極の忘れ物は、九州に嫁いだ姉の結婚式から帰ってくるときに、新幹線出口のタクシー乗り場
で、トイレに行くといって、ご祝儀が入った風呂敷包みを手すりに置いたまま忘れて家まで帰って
きたことだ。
風呂敷包みには、ご祝儀が数百万円入っていて、家族そろって青ざめた記憶がある。
運のいいことに、タクシーの運転手さんが、交番に届けてくれて返却されてきた。
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